神奈川臨海鉄道 千鳥線(その1) 埠頭を駈けたのはいつの日か 〈'99-'01年調査〉 【けたたましい警笛で横断する機関車】 |
千鳥線は神奈川臨海鉄道4大路線のひとつで、塩浜から千鳥町に至りさらに島を半周している貨物線である。列車は毎日運行され、国道132号踏切を渡る様は壮観そのものといってよい。しかし近年、市営埠頭や油槽所からの貨物が廃止され輸送量が減少、今後の動きが注目されている。 【地図解説】 ■黒線−−−−運行線 ■赤線−−−−廃線跡 ■ピンク−痕跡すらない廃線、又は立入れず確認不能の線 |
【塩浜を出発】 神奈川臨海鉄道最大の駅・川崎貨物駅を出発、工業地帯へとむかう。1つめの幹線道路を渡るとすぐ旭化成があり、これが一番近い荷主となる。 |
【旭化成専用側線】 レールの左右とも建物で囲まれているため目立たず、当初知られざる隠れ路線であったが、踏切からながめると工場への分岐が確認できる。コンテナを扱っており、車両数も少なくはなく11時ころと4時ころの2回来ているようだ。 |
【千鳥東線】 やがて千鳥橋を渡ると千鳥町にはいり、分岐を曲がらず直進すると千鳥東線である。この線もかなりレアになってきており、廃止になったのではないかという声すらある。この写真は初期のころ運良く撮れたものであるが、これ以降一度も撮影できていない。いずれにしても定期運行はないと言っていいだろう。 〈最新情報〉 |
【昭和電工での入替】 少し進んだところに昭和電工の側線がありタンク車の入替を行なっている。線路には草が伸びてくるため、たまに作業員が刈りにきているようだ。 |
【レアな路線のプチ側線】 その場所を見てみると側線はかなり短くタンク車2両分のスペースしかない。まるでマイホームの車庫のようである。上部には液体を注入するパイプが下がっている。後にも先にもここ以外に千鳥東線の入替場所は存在しない。これでは機関車の往来が稀であっても無理はないだろう。 |
【放置された貨車】 これ以降のレールは単純な1本線である。途中たくさんのタンク車がとめてあり、何週間もの間放置されていた。ときに自動車を積む貨車がとまっていたり、なにもなかったり、留置場代わりに利用されているのだろうか。 |
【あっけない終点】 大きな交差点前でレールはプツリと途絶える。歩道に忽然と現れた車止めはまるで市中のオブジェのようだ。地図記載のとおり、かつての路線はこの先日商岩井ガスまで延びていた。本来千鳥東線はこのために引かれた路線だったのではあるまいか。 |
【国道132号線踏切】 さて再び千鳥東線分岐より本線に進路を切り替える。この国道は海底トンネルを通じて東扇島につながっているため大型車が止むということがない。遮断機もなく踏切信号式でもないこの踏切、赤の点滅だけでよくもまあこの流れを止められるものだと感心する。機関車も用心のためか、悲痛なまでに警笛を鳴らし通り過ぎてゆく。 |
【千鳥町駅到着】 日本触媒工場内を通過しターミナルに到着。ここにもプチ側線がある。 |
【千鳥町駅】 このターミナルには常時多くのタンク車が留置され、毎日入換えられている。当初これだけのタンク車は日本触媒内部から出てくるものと思われていた。しかし最近日本触媒内には分岐線などないことが判明、上記プチ側線以外荷積み可能な場所はないことがわかってきた。これは一体どういうことなのか。このプチ側線からこれだけのタンク車に1両ずつ液体注入するというのだろうか。この側線の門は閉じていることが多く、奥に小さなアント(※)があるものの動いているところは目撃したことがない。不可解である。…またしても謎発生である。 (※)貨車を整理・移動させるトロッコサイズのミニ牽引車。蟻が自分よりはるかに大きな獲物を運ぶことよりその名がある。 |
【最後の踏切】 ここより先は廃線区間となり機関車はほとんど進入しない。しかしたまにスイッチバックのためこの踏切が鳴らされることもある。 |
【千鳥町駅票】 レール表面の状況よりこの駅票あたりまで列車は来るようだ。そんなレア画像を捉えようと力闘するも、ついに力及ばず… m(_ _)ヾ |
【市営埠頭上屋】 倉庫地区に入るとレールは一気に広がり、3線となる。広場に伸びるいくつもの曲線はまるでナスカの地上絵のようだ。かつて鉄道輸送全盛期にはここに有蓋車などがいくつもの列を作り機関車に引かれていったのであろう。列車の運行なき今、路上に散在する転てつ機(※)は単なる障害物でしかなく、いつ撤去されても不思議ではない。さて次は写真左奥の分岐に進んでみることにする。 (※)ポイント切替レバーのこと |
【全農倉庫への分岐線】 使用されなくなった分岐線の上には資材が散乱し、車がとめられ、木まで生えてきている。 |
【全農倉庫】 ここから複線になっている。平日であるがひと気がない。 |
【港のカーブ】 再び本線に戻り倉庫地区を抜けると港や船が見えてくる。レールに目をやると、何と、溝がきれいに掃除されているではないか!もしや運行再開の準備か?倉庫地区はそのような気配などなかったが… またもや謎である… |
【千鳥線終点】 島を半周、ついに終着地点にたどり着いた。2基並んだ車止めの背中には哀愁を感じる。ここには石材や木材など、風雨にさらしてかまわないものが野積みされている。 |
【あとがき】 |
当初千鳥線といえば1日2往復、決して多くはないがそこそこ運んでいる路線であると考えていた。しかし旭化成専用側線はともかく、千鳥町には小さな液体注入施設が2箇所あるのみとの説が有力で、この説が事実なら正味どれだけ貨物を運んでいるのか疑問になってくる。もしかすると千鳥町駅は単なる貨車の留置場なのではなかろうか。どなたかおヒマな方、千鳥線を調査してみてはいかがだろうか。 (列車運行は平日10時/3時半頃・土日運休?・'04年現在) |
神奈川臨海鉄道 千鳥線(その2) 生きていた埠頭区間 〈'04年11月調査〉 【千鳥町にやってきた通勤電車】 |
あれから3年、千鳥町でまさかの事実が明らかとなった。すでに見終わった路線、当面訪問不要と思った貨物線、そんな千鳥線にこのような秘密が隠されていようとは… 先日同じレア線趣味の方から驚きの情報がもたらされた。何と通勤電車が千鳥町に運ばれてくるという。しかも終着地はあの埠頭!これはものすごいことになってきたと身震いした。夢にまで見た埠頭の走行シーン、それだけで充分レアであるのに車種はこの街にありえない派手な通勤電車。千載一遇の好機に全ての予定を一蹴して訪問することにした。 …思いおこせば前回不可解だった溝の掘り返しとレールの清掃、あれは勘違いや気まぐれではなかった。まさに運行の予兆と捉えるべきだった。そう、ここは本来廃線などではなかったのだ! |
【国道132号線踏切】 予定は聞いていたものの所詮あいまいな時刻表。予想外に備え1時間前より待機した。遠くから汽笛が聞こえ、やがて目の前の警報機が鳴り出す。全ての自動車が立ち止まる中、まばゆいライトとともに青の機関車が現れた。すっかり見慣れた光景であるが引かれてくるものだけが違っていた。 |
【103系車両】 オレンジ色の車両は武蔵野線で活躍中の電車であった。かつては中央線で東京−高尾間を往復していたものに違いない。乾いた警報音の鳴りしきる中、行先も示さず、急ぐそぶりもなく、ただただゆっくりと引かれてゆく。 |
【化学工場とオレンジの電車】 日本触媒前の留置場でしばらく停車、機関車が後ろにまわり込み後押しで進んでゆく。架線のないのっぺらぼうな大空のもと乗客なき通勤電車はいよいよ埠頭エリアに突入してゆく。 |
【倉庫街に進入】 通常なら列車はここで折り返すのだが今日はまるで当然のごとく通過。 |
【埠頭をゆく】 多くの作業員が見守る中、歩調を合わせるように一層低速で進んでゆく。レールの溝は3年前と同じく掘り返されており、アスファルトにはまだ新しい土が散らばっている。 |
【終点到着】 ついに終点。念願だった車止めとの対面シーン。機関車は列車を2つに分割するとやがて去っていった。もはや自走できなくなったこの車両たちは作業員たちにより整備され、いよいよ船積みの準備が始まるのだった。 |
【あとがき】 |
すっかり廃線と思い込んでいた埠頭区間が実はそうではなく超レアな運行線として生きていた。しかも輸出電車の運搬などというまれな役割まで担っていた。なるほど邪魔な路上の転てつ機も撤去されない理由がここにあったということか。今回運ばれてきたのは旧国鉄時代大量生産された103系、四角顔のこの電車、最近めっきり数を減らしているものの誰もが通勤通学に利用したことのあるなじみ深い車両ではなかろうか。このたび縁あってこの103系が常夏の国インドネシアに向け船積みされることとなった。埠頭区間への入線はそのためのものである。故郷から遠く離れた南の国、異国のレールを踏みしめて、より一層の活躍で人々から愛されてほしいものである。 *今回の撮影にあたり情報提供頂いた S.H様・SFL様 この場をお借りして厚く御礼申し上げます。 |