三菱製紙専用線 緑の機関車は紙と共に去りぬ 〈'00-'01年調査〉 【スーパーの裏をゆく紙列車】 |
寅さん映画でおなじみの葛飾・柴又。そこから程近い金町でひとつの製紙工場が閉鎖された。三菱製紙中川工場である。同工場の歴史は古く、開設は大正6年にまでさかのぼる。当時工場建設にあたり水を得るための河川、及び製品運搬用の鉄道が不可欠とされ、この条件を満たす土地として葛飾・金町が選ばれた。この時あわせて建設されたのが三菱製紙専用線である。その後この専用線は短いながらも大いに活躍、近年においても多くの貨車が日々数回往復するなど、まだまだ将来のある貨物線のように思われた。しかし製紙業界の不況もいっそう深刻さを増す中、ここ中川工場までもが業務縮小の対象となり、'03年3月、ついに工場が閉鎖、同時に同専用線も廃止された。これはつい先日まで存在した三菱製紙専用線の運行風景である。 |
【金町付近の地図】 |
【工場の鉄扉】 通常は黒い扉で閉ざされているが、10時になると数名の作業員が訪れ扉を開け放つ。工場内にはすでに貨物満載の列車が待機している。 |
【手動遮断機】 歩道には巻き取りハンドルが設置され、これにより遮断幕を下ろす。 |
【緑の機関車】 見慣れない緑の機関車が顔を出す。機関車というよりむしろスイッチャーに近いかも知れない。普通、本線の機関車が工場まで来るものだがここでは逆である。どうやら工場所有の機関車のようだ。 |
【通りを横断】 踏切信号が赤に変わり、作業員たちが見守るなか列車は進んでゆく。警報音もなく、警笛も鳴らさず、エンジン音も響かない− ただ静かに、カタン…カタン…と横切ってゆく。買い物帰りの親子が初めて見たとつぶやいていた。地元でもあまり存在感はないのかもしれない。 |
【ヨーカドー裏】 専用線は短く、列車はすぐ駅前イトーヨーカドーまでやってくる。青や茶の貨車を引きつれ、近隣に配慮するかのごとく粛々と通過、金町駅に到着する。なぜかヨーカドー屋上には教習所がある。 |
【遮断機のない踏切】 貨車を交換すると、やがて機関車は戻ってくる。ヨーカドー駐車場前の踏切の片方は遮断機がない。このためここには作業員が配備され旗を振る。ここより工場まで、列車は宅地ぎりぎりのところを通過してゆく。 |
【スイッチャー】 やがて列車が工場に戻り鉄扉が閉じると、構内ではスイッチャーが仕分けを始める。よく似ているが先ほどの機関車より小ぶりで、車体には浪速通運・浪速号と書いてある。貨車入替は再び午後にも行なわれる。 |
【あとがき】 |
貨物専用線は臨海部に敷かれることが多いが、内陸部の専用線も決して少ないわけではない。地図で見つけたこの貨物線もそのひとつである。当初運行線かどうかも知らぬまま訪問してみたが、イキのいいレールを見ていけると思った。1度目は工場から機関車が出ると知らず意表をつかれ失敗したものの、これ以降は順調に撮影できた。運行はおよそ10時と3時であったがこれ以降については未調査である。合計3度の訪問のうち実に2回は列車撮影の人たちが来ており、ずいぶん人気のある貨物線だと思っていた。しかしなるほど今思えば彼らは廃線の予定を知る者たちだったのだろう。トラックへの鞍替えで専用線が廃線になるケースは多い。しかし現代、遊園モノレール同様、拠点そのものが消滅するパターンが目立つようになってきた。不況とは恐ろしいものである。 |